恩師、池原義郎先生が5月20日、肺炎球菌肺炎のため逝去。享年89歳でした。
先生が少年時代を過ごされた頃の渋谷は、現在のような都心ではなく、都市と郊外の境界、市街の生活と武蔵野の林地田圃が拮抗する地でした。春夏秋冬を通して、雨に月に風に霧に時雨に雪に、緑蔭に紅葉に様々の光景には、尽きぬ愉しみと詩趣があったと聞きました。先生の設計思想に一貫する 「大地や空、風も建築である」という、ランドスケープ・アーキテクチャーの眼差しは、自然に学び、観察し、考える時、蓄えられた体感が大きく影響していた様です。
陽の光と雨の滴と土の塊でつくられたような先生の建築は、いつも優しく至るところに綺麗な沈黙が隠れています。後年、武蔵野の自然が色濃く残る、所沢の八国山に居を構えられた先生は、その原風景を懐かしく重ねて、仕事以外の時間は殆ど、剪定鋏を駆使した庭仕事と雑木林の散策に費やされ、「自然は寛大であると同時に容赦のないもの。」とよく言葉にされていました。
横浜へ転居される際、先生から頂いたフレッチャーの歴史書を見返し乍ら、好きだったモルトウイスキーを献杯して偲びました。